金利が上がるといわれ続けて15年・・・

 バブル崩壊後の景気衰退以降、金利は多少の上下動はあったものの、大局的にはほぼ横ばいで推移してきました。この間、幾度となく金利の上昇リスクが指摘されてきましたが、上昇といえるほどの上昇は見られず、結果として長年の間、低水準の金利が維持されてきました。

住宅ローン最新金利2012年8月 金利推移比較図

 これ以上下がりようがないといえるほどの低水準の金利が続けば、あとは上がるしかないと推測するのはごく自然なことでしょう。

 上昇リスクを想定して15年前に長期固定で住宅ローンを組まれた方は、この結果に納得がいかないかもしれません。しかし、これほどの低金利が15年も続くと誰が予想したでしょうか。
 
 現在の市場の雰囲気からすると、金利上昇どころかさらに下がる気配すら感じられます。はたして、このまま低金利で推移していくのでしょうか。

今の住宅ローン金利はなぜこんなに低いのか?

 金融機関の低金利競争は激しさを増している状況が続いています。もはや、ほとんど差が見られないほどに金利が下がっているといえるでしょう。変動金利は優遇後、1%を切るのは当たり前。フラット35もとうとう1%台(35年タイプ)まで下がってきました。

 ちなみに、住宅ローン利用者もこの状況は当面変わらないとみており、変動金利や短期固定金利の利用率が年々増加していることからも、金利上昇リスクへの危機感が年々薄らいできているといってよいでしょう。

民間住宅ローン利用者の金利タイプ比較図 平成19年~24年

 また、下のグラフからもわかるように、住宅ローン利用者が最も重視するのはいつの時代も金利の低さです。

 住宅金融公庫融資以外にほとんど選択肢がなかった時代とは異なり、各民間金融機関が提供する住宅ローン商品を、利用者が自由に選択できるようになってからは、この利用者ニーズが、今の低金利をけん引してきたともいえるでしょう。

民間住宅ローン利用者の住宅ローンを選んだ決め手 理由比較図(H23年2月)

 一方、住宅以外の貸出先が伸び悩む中、住宅ローンに貸出先を求めざるを得ない金融機関は、貸出残高増強という組織使命を果たすため、顧客獲得合戦を展開せざるを得なくなります。

 下図のように、多くの金融機関の金利決定要因が、長期国債流通利回りなどの他の金利要素ではなく、他の金融機関の金利であることが、競争の激しさを裏付けています。

金利決定の考慮要因比較図(H23年10月)

 変動金利や短期固定金利であれば、借入時の金利だけ下げて顧客を獲得し、あとで金利を上げれば銀行の都合にいいようにできそうなものですが、今度は借り換えで競争になるなるため、他の金融機関に顧客が逃げないよう低金利を維持せざるを得ないという状況になります。

 激しい市場競争の結果として生み出されている住宅ローンの低金利。利用者にとっては喜ばしい限りですが、無理な金利設定が長期間続くことが、果たして世の中にとっていいことなのか・・・。

 金融機関の経営基盤が徐々に弱くなっていく中、景気停滞による不払い件数が増加するようなことがあれば、たちまちのうちに、経済全体に重大な影響を生じさせることになるでしょう。

金融機関が懸念する住宅ローンのリスク比較図(H23年10月)

 そのような状況を回避するため、金利の過当競争に得るものが少ないと判断した銀行は、やがて適正な金利へシフトすることも考えられますが、現時点の経営方針では金利優遇策を当面は維持し、貸出残高増加を目指す方針をとる金融機関が多いようです。

金利上昇圧力は消えることはないが・・・

 近年の金利上昇への懸念要素は、こちらで説明の通り簡単に消えるものではありません。金利上昇圧力は絶対的に存在し続けます。しかし、上昇懸念はあるものの、日本国債の信用が維持される限り、金利は低水準で推移すると考えられます。では、いつまでその信用が続くのか・・・それが問題です。

 日本国債の信用は守られる・・・ギリシャとは違う・・・という意見は根強く、その説明には一定の説得力があり、なるほどそうか・・・とも思えてしまいます。デフォルトなどあり得ない・・・信じたい気持ちがある面、はたしてそうか?との思いもぬぐえません。一体誰の言ってることが正しいのか・・・まさに神のみぞ知るという状況にあるのではないでしょうか。

 なぜ、金利動向が予測が難しいかといえば、現在の日本の市場・経済環境と類似する状況が、日本の過去の歴史にないためです。現在の日本は、これまで経験したことのない経済・金融環境にいます。また、他国に比較対象を求めることもできません。

 金融知識を駆使した金利予測は、もはや小手先の感があります。金融知識など除いて、大局観で判断することが必要な局面に立たされているのではないかと思えてなりません。現在の日本の借金は900兆円。9年前に見たときは、690兆円でした。消費税を多少上げたところで、減らせる額ではないのは中学生でもわかりそうです。

 現在の日本の財政をわかりやすく例えると、コップの水は少しずつ増えているが、まだ溢れるまでには至っていないという状況と考えられます。水はこの場合日本の借金と思えばよいでしょう。コップにまだ若干の余裕がありますが、水が少しずつ流れ込んでいる。

 しかし、水の汲み出しも何とか頑張っているため、溢れそうで溢れない。水が溢れない限り、社会体制は変わらないため、銀行は競争を続け、低金利は維持されますが、溢れたとたんに金利は制御不能となり上昇に転じることとなります。

 水はその量に関係なく、溢れない限り平常を保っていますが、溢れたとたんに取り返しがつかなくなります。水が溢れる寸前であろうが、まだ余裕があろうが、溢れていないという事実だけが世に知られている。平常である限りその危機が可視化されないため、危険に気づかない。そして気づいた時にはもう遅い・・・そのような状況にあると考えられるのです。

 膨大な借金という汚点さえ除けば、金利は低水準を維持するでしょう。資金が余剰気味で、資金需要が低下している状況にあっては、高い金利設定などありえません。それは、先進国として日本経済が、十分に成熟した証ともいえるでしょう。

 現在心配なのは、低金利の期間があまりにも長く続いていることです。良い面もありますが、どちらかに偏り続けると、現状が常態化し、適切な状況判断を狂わせ、変化に対する流動性、機動性を、各企業、各投資家、各金融機関、そして国民全体が失ってしまう恐れがあります。

 問題の存在を知っているにもかかわらず、その問題が引き起こす痛みが具体的に認識できないため、潜在化している弊害が水面下で増大していることに気づかない。どこかでバランスを取るように力が本来作用するはずなのに、日本全体が何事もないかのように装われているために、誰もが右へ倣えとなってしまう。

 本来金融機関も気づいているはず。この低金利競争から脱却すべきことを。しかし、目先の経営維持を優先せざるを得ないために、やむなく右へ倣えで、お客さんのニーズに合わせるしかなくなっている。この状況は、いわゆる「堰を切ったように・・・」という状況を生み出しかねない危険な状況にも思えるわけです。

 金利はあと数年、低金利が続くかもしれません。しかし、それは、臭いものに蓋をし続けていることの裏返しでもある。そのような意識を捨て去らないことが、今我々にできる備えのような気がします。