建築業者が手抜きをしたことが、後になってわかりました。しかも意図的にです。しかし、欠陥住宅ではないと業者はいいます。手抜きは欠陥だと思うのですが?
住宅の欠陥とは、手抜きや悪意の有無に関係なく、起こった結果として、重大な不具合や機能の欠如があるかどうかで判断されます。必ずしも、手抜き=欠陥住宅ではないのです。
欠陥住宅は全て手抜きだけで起こるわけではない
手抜きの定義
欠陥住宅で最もイメージするのが、いわゆる「手抜き工事」です。
ただし、この手抜きという言葉ですが、いろいろな解釈ができるため、その使い方を誤ると紛争解決時に不要にエネルギーを使ってしまうので、ある程度の注意が必要です。
建築業者の悪意があるものを「手抜き工事」と呼ぶのか、それとも、欠陥が生じたのなら全てが「手抜き工事」なのか、明確な基準はありません。受け取り方によってはどちらも成り立つ解釈です。
なので、トラブル時には「手抜きだ!」「手抜きではない!」の応酬が展開されることになります。
「ミスも手抜きの内に入る」という考え方もあるとは思いますが、明確な意図がある場合を「手抜き」と呼ぶ方が、ミスとの違いを明確にできるので、後者の方が一般的と考えられます。
欠陥住宅の要因類別
まず、住宅の欠陥を発生要因で類別すると、大きく3つに分けられます。
- 業者が意図的に行ったもの
- 意図はしていないが、設計者・工事監理者の技術不足、施工者の施工品質管理能力不足により、起こるべくして起こったもの
- 設計、監理、施工体制は最善を尽くしたが、予見が困難な不可抗力等によって生じたもの
このように、悪意がある場合・・・、悪意はないがミスをしてしまった場合・・・、最善を尽くしたが想定外のことが起った場合・・・これらの内の要因単発で、または、これらが複雑に絡んで欠陥が発生します。
1は、いわゆる「手抜き工事」です。これを防ぐためには、このような不良業者と契約をしないよう業者をよく見極めましょう・・・などとよくいわれるのですが、話はそう単純ではありません。
悪徳リフォーム業者のように、悪意に満ちた建築業者であれば、契約しない以外に防ぐ方法はありませんが、普段は良い業者であるにもかかわらず、手抜きをせざるを得ない状況に追い込まれるケースも実は多いのです。
2は、いわゆるヒューマンエラーと呼ばれるものです。例えば、十分な知識と経験を持った技術者が現場に十分に関与することが省略されるために起りえるものがあります。
材料の調達ミス、職人への指示不足、施工の段取り不足などにより、設計と異なる材料での施工、構造上重要な接合部の接合方法の誤り、施工漏れなどがたびたび起りえます。
3は、特に予測が難しい地盤トラブルなどが挙げられます。
地盤調査をし、地盤改良を行ったが、調査範囲より深い地層部分に空洞などがあり、建物が不同沈下した、また、調査による合理的な推測に基づいた支持地盤まで杭を打ち込んだが、調査地点以外の一部の地層が想定と異なり、建物に傾斜が生じた、などが起りえます。
これらは、予測が難しくやむを得ない面がありますが、前述2の技術者の注意義務不足と要因が輻輳する場合もあります。(例えば雨漏りなど)
手抜きの主犯は誰か?
2と3については、仕方がないという印象がありますが、1については、作為的に手抜きを行っているのですから、とても印象が悪いです。ただし、その全てが悪質極まりないケースばかりではありません。
地元に根を張り、それなりの信用を得ている業者は、最初から無差別に悪質な手抜きをすることは、ほとんどありません。手抜きをするのは、必ずそうしなければならない理由があるのです。
その理由をつくっているのが、実は施主であるケースも多いのです。
発注者である立場を利用した強引な値引き、変更指示、追加指示などが原因で、金額のつじつま合わせをするために、やむを得なく材料の質を落とす、数量を減らす、施工に意識と注意を向けることをやめる・・・といったことをやってしまう場合があるのです。
必ずしも、意図的な手抜き=欠陥住宅ではない
手抜きの全てが悪意に満ちているわけではない
史上最大の手抜き工事として記憶に新しいのが耐震偽装事件です。これは設計段階での手抜きだったのですが、明らかな悪意に基づくものでした。しかも、出来上がった建物は耐震性を欠くものであり、まぎれもない欠陥住宅(マンション)でした。
しかし、新築の分野では、このような、明確な悪意を持った住宅供給業者はそう多くはありません。実際、現在の日本の建築規制制度は、このような明確な悪意を持った住宅供給業者は基本的にいないであろうという性善説を前提としています。
むしろ、まじめにやっている建築業者しか生き残っていないといってもよいでしょう。
現実には、業者が意図的に手抜きをしたとしても、結果として性能的に問題がない場合、それをもって直ちに欠陥住宅と決めつけることができないケースが多いのです。
手抜きはあったが、結果オーライ
例えば、耐震上重要な部材である筋かいを、施主に断りなく、設計よりも少なく施工した場合、それは、「手抜き工事」と呼ばれても仕方ありません。
当然、契約履行義務違反ということにもなります。これらは施工ミスが原因の場合もありますが、現場での納まりの都合上、不足を知った上で意図的に行われる場合もあります。
しかし、結果として筋かいの設置基準を満足しない場合は欠陥と断定できますが、設置基準を満たしている場合、それだけで欠陥とは決めつけられないのです。
手抜き=欠陥住宅 ではないのです。概念的には以下のようなイメージです。
手抜きと欠陥住宅の関係イメージ
欠陥住宅かどうかは、極端な言い方をすれば、業者の悪意の有無や手抜きの有無に関係なく、結果として住宅が欠陥状態にあるかどうかで判断せざるを得ないのです。
事前に説明があれば「設計変更」、後で知ったら「手抜き工事」
あるケースでは、「筋かいの設置を省略したのは、施主の間取り変更指示に基づくもので、基準は満たしているので問題はありません。」と後で建築業者が説明してきたものがあります。
この「基準を満たしているのだから、問題はない」という判断は一理あるのですが、施主への事前の説明を怠ったことを悪びれない姿勢は、契約当事者として許される態度ではありません。
通常、間取り変更の希望があった場合は、基準は満たすが耐震上重要な部材を一部失うことになることを十分説明したうえで、変更の実施を判断してもらうのが正しい手順です。
後で知ったら「手抜き工事」、事前に説明を受けたらそれは通常「設計変更」と呼びます。同じ工事をやっていても、プロセスが異なるだけで、印象が大きく変わってしまうのです。
心情的には、手抜きがあった住宅はまぎれもなく欠陥住宅だ!と決めつけてしまいたい気持ちはわかるのですが、このように、全てがそういうケースばかりではないのです。
手抜きの大きな副作用
手抜きはあったが、結果的に欠陥住宅ではなかった・・・。だとしても、安心できるものではありません。意図的な手抜きを後で知ると、大きな副作用に苦しむ場合があります。
建築業者による開き直り
このように、建築業者が不満を感じたり、面倒な手順を避ける姿勢になるのは、理解できなくもない面があります。
プロとして説明責任を果たさない姿勢は、通常容認されるべきではありませんが、激しい価格競争による厳しいコスト条件、厳しい工期、2転3転の変更指示、技術者不足、職人不足・・・など、現場運営にストレスが課されている状況では、上記のような対応が起りえます。
実際に施主の知らないところで勝手な現場判断が下されることはよくあるのです。
説明もなく現場変更され、「結果オーライなのだから問題ない、そもそも、施主の変更指示が原因です!」などと開き直られたら、建築業者に対する信頼が大きく揺らいでしまいます。
欠陥住宅ではないとしても、業者への不信感はぬぐいきれない
業者に開き直られた上に、さらに、
- 欠陥でないのだから欠陥を根拠とした是正も求められない・・・。
- 説明を求めてもしっかりと説明してくれない・・・。
- 説明を聞いても専門用語が出てきてよくわからない・・・。
- 説明を理解しても、業者の言ってることが本当かどうか信用できない・・・。
- 他の構造体の施工も全てが疑わしくなり、根掘り葉掘り聞くと嫌な顔をされ、互いに険悪なムードに・・・。
しこりを残したまま入居・・・。
ありふれた光景ですが・・・素人である施主が一番苦しむ場面です。
施主が建築業者に対する信頼を完全に失った時、施工上の小さいアラや約束違反を無数に挙げて、これは欠陥住宅だ!という方向に持っていこうとする傾向があります。それは、全てへの不信から、抜本解消を求めたい気持ちが働くからです。
しかし、そのような紳士的な話し合いができない状況になればなるほど、その住宅に重大な機能損失があるかどうか、つまり欠陥があるかどうかに焦点が移り、結果、施主が得をすることはあまりありません。
このように、欠陥はないとわかっても、業者の手抜きは、大きな副作用をもたらし、騒動に発展することが多々あります。あらかじめ、建築業者の丁寧な説明があれば、平穏無事に引き渡しができたのにもかかわらず、順序が逆になってしまっただけで、不信感のみが増幅してしまうのです。
一方、施主が業者の手抜きを知らないまま、平穏無事に引き渡されているケースも多々あります。知らないことは幸福なのか不幸なのか、わからなくなってしまいます。
このような問題は客観的な立場の味方を付けることで、未然化することができます。その鍵が工事監理者制度にあります。これについては別のページで・・・。
事件を契機として法律の強化が行われてはいるが・・・
手抜きがあろうが無かろうが、どのような場合でも欠陥が生じない、または、欠陥が生じても消費者が守られるような規制制度が求められています。そのため、これまで起こった様々な欠陥問題や重大事故などを契機として、建築に関する規制の強化が何度も行われています。
耐震偽装事件はまさに、業者の悪意による歴史上類を見ない欠陥住宅問題でしたが、これを契機として、雨漏り、構造上重要な部分の欠陥に対しての10年保証が確実に行われることとなり、欠陥住宅問題に大きな進展をもたらしました。
しかしながら、欠陥が生じた時の保証が充実しても、欠陥が発生してしまう原因を根絶できていないのが現実です。
確かに、以前よりも不良不適格業者が社会から一定程度淘汰され、企業の順法意識の高まりもあり、欠陥住宅問題は相対的に減少したといえるのですが、欠陥を生み出してしまう根本の原因は、依然として残ったままなのです。
その原因は建築規制制度だけではなく、市場原理主義を柱とした経済制度そのものに内在しており、その原因の根本解消は極めて難しい側面があるのです。詳しくは別のページで説明します。